山についての、ひとつの問題
山についての知識や経験は、驚くほど属人的です。
山岳会やベテランの仲間がいる人は、「この時期のあの山は午後から天気が崩れやすい」「あのルートは地図で見るより体力がいる」といった、教科書には載らない判断の引き出しを自然と手に入れていきます。一方、そうした人間関係を持たない登山者は、情報そのものは手に入っても、自分の体力やレベルに即した判断を誰かと一緒に考える機会が少ない。
もちろん、一人で山を歩く人の多くは、自分なりにリスクを管理しています。ソロ登山そのものが問題なのではありません。YouTubeや登山アプリ、SNSで情報が手に入る時代に、「知識がないから事故が起きる」と単純化するつもりもありません。
ただ、「本当は誰かに聞いてみたかったけど、聞ける相手がいなかった」という場面は、登山を始めたばかりの人ほど多いのではないかと思います。情報はある。でも、「今日、自分が、この山に行って大丈夫か」という問いに具体的に応えてくれる相手を見つけるのは、簡単ではない。
YAMATOMOについて
私はこの問題を少しでも小さくしたくて、YAMATOMOを開発しました。
正直に言えば、アプリひとつで山の事故がなくなるとは思っていません。経験者と初心者の間に、長年かけて築かれるような信頼関係を、アプリが代替できるとも思っていません。
YAMATOMOが提供できるのは、同じ山に関心を持つ人同士が出会う「最初の接点」です。
同じ山に、同じ日に登ろうとしている人がいる。その人と、登る前に少し言葉を交わせる。「このルート、どうでしたか」「午後から天気が崩れるみたいですよ」。そういう何気ないやり取りが生まれる場所を作ること。それがYAMATOMOの山チャットという機能です。
そこから先、一緒に山を歩く仲間になるかもしれないし、一度きりの会話で終わるかもしれない。それはアプリが決めることではなく、人と人との間で自然に生まれるものです。
ただ、今まで存在しなかった出会いの入り口があるだけで、山との向き合い方は少し変わるはずだと信じています。不安なまま一人で判断するしかなかった人が、声をかけられる場所がある。それだけのことが、登山という体験の質を静かに変えていく。
YAMATOMOが目指しているのは、大きな革命ではありません。山を楽しむ人同士の間に、今よりも少しだけ多くの接点を作ること。その積み重ねが、結果として、より安全で、より豊かな山の文化につながっていくと考えています。
山内悠平