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「標高」と「海抜」は違う?山好きなら知っておきたい地理の話

「標高」と「海抜」は違う?山好きなら知っておきたい地理の話
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山頂に立ったとき、標識に書かれた「標高3,776m」の数字を見て達成感に浸ったことはありませんか?ではその「標高」、いったいどこからの高さを表しているのか、説明できるでしょうか。さらに、街中の電柱や防災看板でよく見かける「海抜◯m」という表記——これは標高とは別物なのでしょうか。この記事では、登山者なら知っておきたい「標高」と「海抜」の正体をわかりやすく解説します。

「標高」と「海抜」、じつは基準が違う

結論から言うと、日本においては標高も海抜も、実質的にはほぼ同じ数値になります。ただし、本来の定義は異なります。

標高とは、東京湾の平均海面(1873年〜1879年に観測された潮位の平均)を0mとして、そこからの垂直距離で表した高さのことです。国土地理院が地図や測量で公式に使用しているのは、この「標高」です。

一方、海抜は「その地点に最も近い海面からの高さ」を意味する言葉です。たとえば日本海側の街であれば日本海の海面から、太平洋側であれば太平洋の海面から測るのが本来の考え方です。

では、なぜ「ほぼ同じ」になるのかというと、日本では慣習的に海抜も東京湾の平均海面を基準にして使われることがほとんどだからです。防災看板に書かれた「海抜5m」も、実際には標高と同じ基準で表示されています。ただし、一部の離島などでは周辺海域の海面を参考にしている場合もあるため、厳密には差が生じることがあります。

初心者が陥りがちな誤解として、「海抜のほうが海に近い場所で使う特別な数値」と思い込んでいるケースがあります。実際には、山の標識でも防災看板でも、基準となっている海面は同じ東京湾平均海面です。つまりどちらを使っても、日本国内ではほぼ間違いではないのです。

日本のすべての「高さ」は、永田町の小さな建物から始まる

山の高さの基準がどこにあるか、ご存じでしょうか。意外なことに、それは山の中ではなく東京・永田町の国会前庭にあります。

ここに設置されているのが日本水準原点と呼ばれる基準点で、その標高は24.3900mと定められています。日本中の山や建物の標高は、この一点から全国に張り巡らされた水準測量のネットワークを通じて決定されてきました。

この水準原点には、じつは波乱の歴史があります。1891年の設置当初は24.5000mとされていましたが、1923年の関東大震災で地盤が沈下し24.4140mに改定。さらに2011年の東日本大震災でも約24mm沈下し、現在の24.3900mになりました。大地震が起きるたびに、日本の「高さの基準」そのものが変わっているのです。

なお、日本水準原点とそれを収める標庫は、100年以上にわたり日本の高さの基準を守り続けたことが評価され、2019年に測量分野の建造物として初めて国の重要文化財に指定されました。永田町を訪れる機会があれば、一度足を運んでみるのも面白いかもしれません。

山の高さは「変わる」——2025年の大改定

「山の標高は不変のもの」と思っていませんか? じつは、山の高さは測量技術の進歩や地殻変動によって更新されることがあります

2025年4月、国土地理院は「測地成果2024」への移行を実施しました。これまでの水準測量(地上で一点ずつ高さを測り繋いでいく方法)から、衛星測位(GNSS)を基盤とした新しい標高体系に切り替わったのです。従来の方法では全国の測量を終えるのに10年以上かかり、水準原点から遠い地域ほど誤差が大きくなるという課題がありました。

この改定により、地域によっては標高の値が数十cm規模で変わる場所もあるとされています。山の標高が数cm・数十cm変わったとしても登山の実感には直接影響しませんが、「標高は絶対不変ではなく、技術と基準の更新によって変わりうるもの」という事実は、山好きとして知っておくと面白い知識です。

※ 標高や測量基準に関する最新情報は、国土地理院の公式サイトをご確認ください。

まとめ

「標高」は東京湾平均海面を基準とした国土地理院の公式な高さ、「海抜」は本来は近傍の海面からの高さですが、日本では実質同じ基準で使われています。そして、その基準となる日本水準原点は永田町にあり、大震災のたびに改定されてきた歴史を持ちます。さらに2025年には衛星測位ベースの新しい標高体系に移行し、山の高さの「測り方」そのものが大きく変わりました。

次に山頂標識の数字を見たとき、「この高さは永田町の小さな建物から繋がっているんだな」と思い出してみてください。いつもの山がほんの少し違って見えるかもしれません。

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